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コスト削減が、本来の目的を邪魔していないか
フットケアの事業を営んでいる友人と話をした。
私自身もその施設に通っているため、彼とは経営者同士であると同時に、経営者と顧客という関係でもある。
そのため、ときどき利用者として感じたことを率直に伝えることがある。
経営する側からは見えにくいことでも、客の立場になると気づくことがあるからだ。
今回、気になったのはスリッパの扱いであった。
「スリッパは200円です」
先日、その施設のエントランスに入ると、
「スリッパは200円です」
という札が貼られていた。
以前にはなかったものである。
利用者には専用のスリッパが一度配布されており、来店時にはそれを持参することになっているらしい。
私もスリッパを受け取ってはいたが、これまで持って行ったことはほとんどなかった。
そもそも、エントランスから施術場所までは、ほとんど距離がない。
そのため私は、
「なぜわざわざスリッパが必要なのだろう」
と疑問に思っていた。
スリッパを持参する意味が、利用者である私には伝わっていなかったのである。
友人に尋ねると、今後はスリッパを忘れた人には、200円で購入してもらうことにしたという。
毎回無料で配っているとコストがかかる。
忘れた場合に購入してもらうルールにすれば、次回から持参してもらいやすくなる。
一見すると、合理的な仕組みにも思える。
スリッパの本当の目的
私は、そもそもスリッパを配布している理由を尋ねてみた。
フットケアでは、利用者が裸足になる。
裸足や靴下の状態で床を歩けば、足の感染症を持っている人から、ほかの利用者へ広がる可能性がある。
そのリスクを減らすために、専用のスリッパを履いてもらっているという説明であった。
私はその説明を聞いて、初めてスリッパの必要性を理解した。
それならば、確かに履いたほうがよい。
しかし同時に、別の疑問が浮かんだ。
スリッパの目的が感染を防ぐことなのであれば、忘れた人に購入を求める仕組みで、本当にその目的を果たせるのだろうか。
毎回スリッパを持参するのは、利用者にとって正直面倒である。
自宅から持ってくるのを忘れることもある。
ましてや、なぜ必要なのかが説明されていなければ、重要性を感じない人も多いだろう。
私は友人に尋ねた。
「スリッパを持ってきていない人に、200円で購入してくださいと実際に言えるのか」
すると、やはり言いにくいという答えが返ってきた。
そうなると、スリッパを持ってこなかった人は、そのまま履かずに入ってしまう可能性がある。
それでは、最も大切な感染予防という目的が果たせない。
安価な使い捨てスリッパを用意する
そこで私は、安価な使い捨てスリッパを施設側で用意してはどうかと提案した。
エントランスに常備し、来店した人には必ず新しいスリッパを履いてもらう。
スリッパが置いてあれば、普通は履くだろう。
もし履いていない人がいれば、
「こちらのスリッパをお履きください」
と一言伝えればよい。
購入をお願いするのは言いにくい。
しかし、無料で置いてあるものを履いてもらうだけなら、スタッフも案内しやすい。
その場で使い捨てスリッパを調べてみると、1足50円程度のものが見つかった。
購入数や仕入れ先を工夫すれば、さらに安価なものもあるかもしれない。
もちろん、利用者ごとに新品を用意すればコストはかかる。
しかし感染を防ぐことが本当の目的であるならば、そこは必要な経費として考えるべきではないだろうか。
むしろ、同じスリッパを利用者が自宅から持参し、繰り返し使う方法にも疑問が残る。
スリッパを毎回洗浄している人は、それほど多くないだろう。
仮に感染症を持っている人が同じスリッパを使い続ければ、スリッパそのものが衛生上の問題になる可能性もある。
それならば、安価な使い捨てスリッパを毎回使用するほうが、仕組みとしては分かりやすい。
目的と手段が入れ替わっていないか
経営をしていれば、コストを抑えようと考えるのは当然である。
小さな支出でも、利用者の数が増えれば大きな金額になる。
友人がスリッパを有料化しようと考えた理由も、経営者としてよく理解できる。
ただし、今回のスリッパの本来の目的は、配布コストを抑えることではない。
利用者に忘れず持ってきてもらうことでもない。
感染を防ぎ、安心して施術を受けてもらうことである。
有料化によって利用者がスリッパを履かなくなったり、スタッフが購入をお願いできなかったりするのであれば、手段が目的を邪魔してしまう。
また、利用者からすると、入り口で突然「200円です」と書かれていれば、不快に感じる可能性もある。
金額の大小ではない。
「なぜ支払わなければならないのか」
「なぜ必要なのか」
という説明がないまま料金だけを求められると、ホスピタリティに欠ける印象を持たれかねない。
顧客の立場にならなければ見えないこと
経営者は、毎日その事業について考えている。
だからこそ、サービスの目的やルールを自分では十分理解している。
しかし、顧客が同じように理解しているとは限らない。
今回、私はスリッパを履く理由すら知らなかった。
理由を聞けば納得できることでも、説明されなければ、ただ面倒なルールにしか見えない。
そして、コストを抑えるために考えた仕組みが、顧客にとっては不便や不快感につながることもある。
私は友人に、経営の専門家として助言したわけではない。
一人の利用者として、
「私はこう感じた」
と伝えただけである。
友人も話を聞いて、非常に納得してくれた。
経営者にとって、顧客視点を持つことは簡単なようで難しい。
だからこそ、ときには顧客の声を率直に聞き、本来の目的に立ち返る必要がある。
コストを抑えることは大切である。
しかし、何のためのコストなのか。
その支出によって、どのような価値や安心を提供できるのか。
削減を考える前に、まず本当の目的を確認することが大切なのだと思う。
豊アルケミー株式会社
代表取締役 桐山 宗久