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『価値を売る仕事、時間を売る仕事』 稼業を継いで見えた商売の本質
私がサラリーマンを辞め、稼業を継ぐために地元へ戻ってきたのは、いまから20年前のことである。
兄も私も家業を継ぐ気はなく、それぞれ自分の進みたい道を選び、就職していた。
しかしその間に父が体調を崩し、私が戻った頃には、取引先もごくわずかで、廃業寸前の状況に陥っていた。
とりあえず自分の給料を決めるため、サラリーマン時代の給与明細を父に渡した。
そのとき父が口にした言葉が、今も忘れられない。
「こんなに長時間働いて、これだけしかもらってないのか」
その言い方に、私は少し引っ掛かりを覚えた。
仮にも私は一部上場の大企業に就職し、学生時代の同期と比べても、それなりに恵まれた職場であった。
しかし一方で、父の言い分を否定しきれない部分もあった。
私自身、大学院を卒業し、5年勤めて得た給料で、果たして父が私にしてくれたようなことを、自分の子どもにもしてやれるのか。
その疑念は、ずっと心の中にくすぶっていた。
稼業を継ぎ、初めて手にした給料は、サラリーマン時代にたっぷり残業を付けた額よりも多かった。
しかも父は、それだけ私に支払っても、自分の取り分をきっちり確保していたのである。
父自身は肉体的にはほとんど動いていないにも関わらず、電話一本で動いてくれる取引先があり、そこで得られる利益で、父と私の二人分を養うには十分だった。
残業どころか、実質的な稼働時間は半日にも満たない。
利益を生む確固たるビジネスモデルが存在していたことを理解するのは、それからしばらく経った後のことである。
そういえば「いい商売だぞ」と父が常々言っていたことを、ふと思い出す。
(もちろん誰がやってもうまくいくというものではないが)
仕事とは価値を提供することであり、長時間働くことや休みなく働くこととは全く関係がない。
もし私がサラリーマンのままだったら、そんな大事なことに気づかないまま、ずっと過ごしていたかもしれない。
顧客にとって、自分が長時間働いているか否かは、まったく関係がない。
顧客が求めるものを手にできるかどうか、ただその一点こそが重要なのである。
こちらの都合など、知ったことではない。
自分が顧客の立場に立てば、そのことは痛いほど理解できるはずだ。
さらに付け加えるなら、「価値を提供する」という価値の基準を決めるのは、あくまでも顧客である。
いくらこちらが「価値がある」と声高に主張しても、相手がそう受け止めなければ、それはただの幻想に過ぎない。
そんなことを、日々考え続けるのが商売人の仕事なのである。
豊アルケミー株式会社
代表取締役 桐山 宗久