News 新着情報
「たくさん買うから安くして」が通用しなくなった社会
需要が減っても足りていない
――供給制約の時代に、何が起きているのか
弊社は、アルミのリサイクル原料を取り扱っている。
国内で発生するアルミのスクラップを集め、それを再生メーカーやインゴットメーカーへ販売する仕事である。
このところ、業界全体で原料不足の状態が続いている。
これは一言で言えば「供給制約」が起きている状況だ。
取引のあるメーカーだけでなく、これまで取引のなかったメーカーからも「原料を分けてほしい」という引き合いが来るようになった。
一方で、再生メーカーは原料が足りず、インゴットを思うように生産できていない。
ここまでは、いわゆる「需要が強いから足りない」という話のようにも聞こえるかもしれない。
しかし、実際の状況は少し違う。
実は、需要そのものは減っている
インゴットのユーザーである部品メーカーの生産量は、以前と比べると落ちている。
つまり、需要の総量自体は減っている。
それにもかかわらず、その「減った需要」を満たすだけのインゴットすら生産できない、というのが今の現実である。
通常であれば、需要が減ればモノは余り、価格は下がる。
しかし今は、そうなっていない。
理由は単純で、
供給能力の落ち込みの方が、需要減少よりも大きいからである。
原料が集まらない。
集めようとすれば、コストも手間も増える。
結果として、「作りたくても作れない」状態が発生している。
これは需要の問題ではなく、供給側の構造の問題である。
「たくさん買うから安くして」が通用しなくなった
以前は、インゴットメーカーにとって、
-
なるべくたくさん作りたい
-
たくさん売りたい
-
だから量が出るなら値段を下げる
という構図が成り立っていた。
ユーザー側も、
-
まとめて買う
-
だから安くしてほしい
という交渉が自然だった。
ところが今は逆になりつつある。
注文が増えれば増えるほど、
より高い原料を探しに行かなければならない。
つまり、
量が増えると、むしろコストが上がる
という、これまでの常識では考えられなかった状況が起きている。
新卒初任給の高騰も、同じ構造ではないか
少し話題は変わるが、新卒の初任給が大きく上がっているという話をよく聞く。
これも理由は明確で、
-
少子化
-
若年労働人口の減少
-
労働力の供給が減っている
という構造がある。
能力が急に上がったからでも、企業が急に優しくなったからでもない。
人がいないから、値段(賃金)が上がるのである。
アルミ原料も、労働力も、
本質的には同じ「供給制約」の問題だ。
「買い叩く」という発想が通用しなくなった理由
供給が減っている状況で、
-
とにかく安く
-
もっと下げろ
-
他にいくらでもあるだろう
という発想は、もはや成立しない。
単純に、相手は無理をしてまで取引をする必要がないからだ。
これは倫理や精神論の話ではない。
力関係が変わったという、構造の話である。
コストダウンが否定されたわけではない
誤解してはいけないが、
コストダウンそのものが悪だと言いたいわけではない。
-
省力化
-
自動化
-
ロボット化
-
工程の短縮
-
材料の削減
-
不良率の低減
こうした合理的な理由のあるコストダウンは、今後も重要である。
しかし、
-
力関係で押す
-
立場の弱さに付け込む
-
「昔からそうだったから安くしろ」
というコストダウンは、
供給制約の社会では成立しない。
本質は「価格」ではなく「前提」の変化
安くしろ、という交渉が通用しなくなったのは、
市場が冷たくなったからでも、企業が強欲になったからでもない。
前提が変わったのである。
-
供給過多の時代は終わった
-
供給サイドがユーザーを選べるようになった
この現実を受け入れられない企業は、
知らず知らずのうちに市場から距離を置かれていく。
これからの時代に必要な視点
これからは、
-
なぜその価格なのか
-
なぜその条件なのか
-
どこに制約があるのか
を互いに理解しながら、
関係性そのものを設計し直す必要がある。
安さで成り立っていた経済は、静かに終わりつつある。
これから残るのは、
理由のある価格と、納得のある取引だけなのだと思う。
豊アルケミー株式会社
代表取締役 桐山 宗久