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「録音してもいいですか?」と言われて考えたこと

取引先の営業の方が来社された。
新入社員を同行しての来社であった。

こうやって先輩について学べる環境というのは、とても良いことだと思う。
やはり、実際の現場に同行しながら覚えていくというのは、営業に限らず非常に大切である。

しかも、その会社は大きな会社である。
教育の仕組みもかなり整っているのだろうなと感じた。

しかし、その場で少し違和感を覚える出来事があった。

「勉強のために録音してもいいですか?」

新人の方が、

「勉強のために録音させていただいてもいいですか?」

と言って、スマホを取り出したのである。

もちろん、無断で録音するより、きちんと断りを入れる方がはるかに良い。
そこは最低限のマナーとして大切なことだと思う。

ただ、私は正直、あまりおすすめできない方法だなと感じた。

今回の商談は、特別な機密情報を扱うようなものではない。
最近の市況はどうか、何か取り扱いできる案件はないか、
そういった“ジャブ”のような営業である。

厳密な契約交渉でもなければ、重要事項の確認でもない。
いわば、関係性を維持するためのコミュニケーションに近い。

しかし、そこで「録音します」と言われた瞬間、空気が変わる。

人は「録音される」と本音を引っ込める

たとえ悪意がなくても、人は録音されていると思うと、本音を引っ込める。

「ここだけの話だけど」
「実は最近こんなことで困っていて」
「他社さんではこういう動きがあって」

そういった雑談レベルの情報こそ、営業の現場では価値がある。
しかし、録音されるとなると、こちらも無意識に言葉を選ぶようになる。
そして口数も減る。

これは別に機密情報がどうこうという話ではない。

飲み会の場で、
「録音しておきますね」
「動画撮っておきますね」
と言われるのと近い感覚である。

悪いことを話しているわけではなくても、人は自由に話しづらくなる。

「学びたい」は分かる。でも…

もちろん、新人の方が学びたいという気持ちは理解できる。

営業トークを後から聞き返して勉強したい。
先輩の会話の進め方を分析したい。

そういう意図なのだろう。

しかし、相手側からすると、

「自分の学習のために、この場を使っている」

という印象にもなり得る。
そして相手はそのために”利用”されていると受け取られる可能性もある。

営業というのは、本来は“相手のため”が前提にある仕事である。

新人なのだから、何もできなくて当然である。
それでも、

「なるほど」
「それはどういうことですか?」

といった感じで、うなずいたり、メモを取ったり
真剣に吸収しようという姿勢が見えるだけで十分なのである。

むしろ、その方が
「学ぼうとしているな」
と感じる。

録音という行為は学ぶ上では効率的かもしれない。
しかし、その効率性が、人間同士の距離感や安心感を削ってしまう可能性がある。

技術は進化した。でも、空気感は消えない

時代が変わったのだろう。

AIで文字起こしもできる。
議事録も自動生成できる。
録音して振り返ること自体は、合理的な行為である。

私自身も、会議の録音やAI活用を否定するつもりは全くない。

しかし、営業という仕事は、単なる情報交換ではない。

「この人には話してもいい」
「この会社なら安心できる」

そういう空気感の積み重ねで成り立っている部分が大きい。

だからこそ、技術的に可能だからやる、ではなく、

“相手がどう感じるか”

まで考える必要があるのではないかと思う。

古い感覚なのだろうか

私はその場では録音を断らなかった。
信頼関係もあるし、悪用されるとも思っていないからだ。

ただ、正直に言えば、あまり気持ちの良いものではなかった。

もしかすると、私の感覚が古いのかもしれない。
今回の件、会社の方針としてやっているなら
しかし、人間関係の中には、合理性だけでは測れない部分があるように思う。

皆さんなら、営業先で
「録音してもいいですか?」
と言われたら、どう感じるだろうか。

もうひとつ思ったこと。
議事録作成に録音とAIを使うのはとても効率がよいが、
本当に使うかどうかは、よくよく考えた方がよい。
議事録を作成するために会議や打ち合わせをしているわけではない。
会議の目的や、録音の有無に関わらず本音で話せる関係性なのか、
そういったことを見極めて判断する必要がある。

 

豊アルケミー株式会社
代表取締役  桐山 宗久